幕間

140文字で語りきれなかったあれこれ

ミュージカル『黒執事』〜NOAH'S ARK CIRCUS〜

ミュージカル『黒執事』〜NOAH'S ARK CIRCUS〜

⚫︎12/10(土)12:00 17:00
あましんアルカイックホール

 

久々の観劇は待ちに待った『黒執事』!
昨年観た『地に燃えるリコリス』が2015年で特に良かったと記憶している観劇体験だったので今回も楽しみにしてました。

劇場内に足を踏み入れた瞬間に流れるワルツ、舞台上のセットは柱の骨組みが見え、暗幕で空間を仕切るように垂れ下がる。何をとっても我々をサーカス小屋に引き込む魅力に溢れていて始まる前から既にドキドキしていた。

開演5分前の客席がまだ少し騒ついている中に、ピエロ姿のアバハン(高木俊・寺山武志)が登場する。
もう彼等の『空気を自分たちのモノにする』力に関しては何も言うまい、客席を練り歩き軽快なトークとピエロさながらの芸でわたしたちはいつの間にか本当にサーカス小屋の中の観客になっていた。
(ホントこの2人は10年くらいコンビ組んでんのかな?ってくらい面白い)

 

シエル坊ちゃんが鳥籠の中に囚われ、セバスチャンと契約するお決まりのシーンがなかったらホントに序盤から浮かれていたと思うよ。
新しいシエル坊ちゃん(内川蓮生)セリフもはっきり聞き取りやすいし歌も悪くない。デビューが黒執事で良かったの?レミゼのガブローシュとか行けたんじゃ…?と感心。坊ちゃんは難しいセリフが多いから大変だったろうなぁ。たまに舌が縺れると「がんばれ!」と手に汗握ってしまう。
しかし美少年だ。あと少し大きくなったら事務所のハンサム達が年末に集うフェスティバルに是非来て欲しい。

 

セバスチャン(古川雄大)に関してはもう…立ち姿から2次元みたい。歌い出したら脳が溶けそうなくらい美声。スタイルが良いから燕尾服が良く似合う。相変わらず美しいお顔が悪魔らしく怪しげな微笑みで彩られている。彼の欠点ってなんなんだろう?強いて言うなら顔が小さ過ぎるところ?
とにかく小さな坊ちゃんの執事として一歩下がって付き従い、時には捕食者のような瞳で怪しげに近づく。坊ちゃんの我が儘に冷ややかな表情で悪態をつくあたり「この人ホントに悪魔なんだよなぁ」と核を忘れさせない辺りが見事だ。
やっぱり、踊ってるときが一番かっこいいんだけどね!

 

今回の主役はこの主従ではなくて、三浦涼介演じるサーカス団の兄貴分・ジョーカーであったように思う。
飄々とした態度、年下の弟たちやサーカスに潜り込んだシエルを労わる優しさ、街のこどもを攫う悪人の顔、色々な顔を持った人なんだけど歌声にだけは悲しみや葛藤が浮かんでいて、つくづくピエロらしい。
本当の自分を見せない道化としてのジョーカーを全うしていた。
ここまでの徹底したお芝居があったから、孤児院に残してきた弟たちの将来を願って死んでいくシーンはなかなか堪えた。だって会場のお客さんのほとんどはもう孤児院なんてとうに無くなってることを知ってるわけだし(原作既読)、サーカスの仲間たちもファントムハイヴ家の使用人に返り討ちに遭ってこの世にいないことを知ってるわけだから泣くしかないシーンだよね。
最後まで運命に見放されて犬死していく人々の希望さえとうの昔に潰えていたのだから虚しいったらない。

 

華々しく電飾の光を飾って満面の笑顔で出てきたサーカスのみんなだけど、原作既読のお客さんからしたら楽しい半分みんな死んじゃうんだなって悲壮感半分だよ。
エアリアルシルクも素敵だったけど、ダガー(三津谷亮)の一輪車がとにかく凄かった。みつやさんの世界1に輝いた一輪車の技がこんな場面で生かされるなんて…。

 

個人的にはウィリアム(輝馬)の歌が上手くて良かったなぁと。だってサーカスで空中ブランコしながら古川雄大さんと歌うシーンがあるんですから、下手な人だったら全然惹きつけられるシーンにならないじゃない!テニミュに出ていたときも歌が上手かったけど古川くんに引けを取らないくらいまで役者として成長した輝馬さんを見られて嬉しい。
いつか東宝ミュージカルでお待ち申し上げております!

 

サーカス団の怪しげな人々やジョーカーというピエロの裏の顔、黒幕ケルヴィン男爵に運命を弄ばれるこどもたち。カーテンを引いて物語の奥へ奥へと進んでいくような場面の切り替わりやそれを誘うように多くを語らず我々を導くセバスチャン、我々と一緒に物語の謎に翻弄されるシエル坊ちゃん、よく出来た脚本だったなぁ。
『地に燃えるリコリス』よりは歌えるキャストが少なくて物足りなさはあったけれど、華やかさや物語の出来で言ったら文句ない見応えでした。