幕間

140文字で語りきれなかったあれこれ

月組『グランドホテル』

月組『グランドホテル』

⚫︎1/9(月)15:00公演
1/12(木)15:00公演
宝塚大劇場

 

2017年宝塚初め!
珠城りょうさん月組トップスター就任おめでとうございます!

 

1928年ベルリンの高級ホテル『グランドホテル』に宿泊する人々が繰り広げる群像劇。
今回の主人公は借金まみれの青年男爵フェリックス(珠城りょう)。
ホテルの回転扉を抜けてこちら側に姿を現す姿、白の衣装がよく映える恵まれた体格、この姿を忘れたくないと願ってしまう存在感。
金に困った男爵が落ち目のバレリーナ・エリザベッタ(愛希れいか)のネックレスを盗みに彼女の部屋に忍び込むあたりの場面も良かった。世間の評価だとか年齢だとかあらゆるしがらみにがんじがらめになっているエリザベッタはどこか、わたしたち現代女性に通じるストレスを抱えている。でも男爵は少年ぽさや純真さをもってエリザベッタの本来的な明るさ、少女みたいな気取らない心を蘇らせていく。我々はちゃぴちゃんではないので若い恋人を諭すマダムにも少女のように可憐な恋人にもなれないけれどこの2人を祝福せずにはいられない。
(ところで演技の幅もぐっと広まって貫禄のついたちゃぴちゃんはホントに姉さん女房みたい(笑))
それだけに最後に男爵が殺されてしまうのが悲しいよね。
ホテルのフロントで男爵を待つエリザベッタの姿にいたたまれなかった。

 

運よく両方の役替わりで観られたのだけど、わかばフラムシェンとアリ・ラファエラが好きかな。
アリ・ラファエラ(暁千星)は体も大きくて男性的なのだけど『実直・純粋』にエリザベッタに付き従う友人というよりは従者のような人。華奢で可憐なエリザベッタへの憧憬がいつしか彼女の人生の全てになって、エリザベッタという人に人生の全てを預けたような献身がなんだかくすぐったくもある。
多分すごく根はエリザベッタよりもずっと可愛いんじゃないかな。
だから男爵が亡くなったことをエリザベッタに告げられずにいる必死の姿には胸を打たれた。

 

変わって朝美・ラファエラ(朝美絢)はエリザベッタに対する遠慮が一切ない。
これが同期だからこその距離感かとちょっとびっくりするくらい息ぴったりでした。
愛情を持って誠実に彼女に付き従う人だから最初は男爵のこともよく思っていなかったと思う。
仲良しの友達を取られちゃったというよりは、片思いの相手を横からかっ攫われたみたいな。
それだけにこの人はエリザベッタとなら心中できるだろうなって妙な確信を抱いてしまった。

 

わかばフラムシェン(早乙女わかば)か、くらげフラムシェン(海乃美月)か。
悩むんですよね。
2人とも可愛いんだから。
わかばがフレンチ・ギャルだとすればくらげはイングリッシュ・レディって印象がずーっとあるので今回はわかばちゃんの方が好みだったかな。
何回も組んでるからか美弥るりかさんとの掛け合いも息があってるんですよね。

 

余命幾許も無い会計士オットーを演じる美弥ちゃんだけど、グランドホテルで有り金叩いて人生を手に入れようとする腰の曲がった病人をここまで魅力的で色気のある人物に仕上げて来るのだからさすがです。
フラムシェンと歪ながらもダンスするシーンも、幸せを掴んで一緒にパリへ行くところも良かったけれど、やっぱり男爵に株の儲けを渡すところがたまらない。
男爵が財布を盗もうとしたことも、友人という関係が偽りから始まったことだということもオットーは全部わかってしまったと思う。それでも男爵を信じてお金を渡す理由が「友人だから」。
金のために汚いことをしようとする男爵だけれど彼の誠実な心とそれに触れた人々はそれを許してくれるし、彼を外道に堕ちる寸前で思いとどまらせてくれる。
素敵な話なのだけれど、彼はその自分の誠実さによって命を落としたとも言える。

物語の幕引きにエリザベッタと男爵が再び巡り会えて、宝塚という世界の救いに感謝した。